人種差別撤廃条約:マレー人優遇撤廃となるか?

先月24日、マレーシアのP. Waytha Moorthy国家統一・社会福祉担当首相府大臣が、基本的人権に関する国際条約のうち6つを批准する予定と発表した。今年5月の総選挙でマハティール首相率いる希望同盟(Pakatan HarapanまたはPH)が公約した通りなのだが、批准予定の中には「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(ICERD)」が含まれ、これがかなりの物議を呼んでいる。

ご存知の通り、マレーシアには「ブミプトラ政策」と呼ばれるマレー人優遇政策がある。連邦憲法第153条で定められており、マレー人並びにサバ州及びサラワク州の先住民の特別な地位や正当な利益を守り、公務職、奨学金、教育上の特権などを保障している。例えば、マレーシア・マラ工科大学やマラ・ジュニア理科カレッジなど有名大学への優先入学、マレー人だけの奨学金、住宅割引、マレー人だけで編成された軍の部隊、などである。

不公平だという声はもちろんある。しかし連邦憲法第153条は、「マレー人でない者(華人、インド人等)へ生地主義に基づいて国籍を与える代わりに、マレー人の特別な地位を定めるとしており、同第8条では、これが憲法の定める「法の下の平等」や「法の平等な保護を受ける権利」には反しないとしているのである。

こうした国の基本政策とICERDの齟齬を懸念する方面、特にイスラム系の宗教団体やNGOからは、すでにICERDの批准に反対する抗議がなされ、専門家からも、批准には憲法第153条を改正する必要があり、国民も巻き込んだ議論や国民投票が必要だという声が上がっている。

これに対し、Datuk Saifuddin Abdullah外務大臣は、ICERDに関する議論は時間をかけて慎重に行われ、6つの基本的権利に関する条約の中でも一番最後に批准されることになるだろうとし、政府の優先する条約は、強制失踪防止条約(ICPPED)と拷問等禁止条約(UNCAT)だとした。同時に政府には、連邦憲法第3条(イスラム教の位置付け)、第152条(公用語としてのマレー語)、第153条(ブミプトラ政策)を修正・変更する意図はない、と明言したのだ。

なかなか一筋縄では行かないであろう条約批准だが、とりあえずは批准しやすいものから片付けていくというところであろう。若いマレー人の中には、ブミプトラ政策自体が差別であり、ICERD批准のタイミングに合わせて撤廃されるべきだという声もある。50年以上も続いた慣習に風穴を開けられるだろうか。老練政治家のマハティール首相にとっても難しいだろう。あとは、次の世代に任せるか。マレーシアの国の根幹に関わる問題だけに、今後の展開が注目される。

(Hummingbird Advisories  白新田 十久子)