フック首相批判の怪文書出回る

グエン・スアン・フック首相を公然と批判する怪文書が出回っている。職務能力や家族のビジネスへの関与を問題視し、適性を再検討するよう共産党に求める請願書で、幹部公務員の教育を行うホーチミン国家政治行政学院(HCMA)の現役教員が作成したとされる。この手の告発がネットに流出することは珍しくないが、指導部任期(2021年)が折り返し地点を回ったこの時期に、党ナンバー3の首相の醜聞が出てきたとことは注視したい。

請願書は、グエン・カイン・ビン氏がHCMA現役および元教員数名を代表して書いたとされる。フック首相について、地方省市に国の経済を牽引するようワンパターンに奨励することは知性に欠けると批判、首相一家が親密な経営者に便宜を図っているため、必要な公共事業の進行が遅れているなどと非難した。一家が関与する事業や企業として「ホーチミン市洪水対策事業やチュオンハイ自動車、SHB銀行、アンビン銀行、ノバランド、タンホアンミン、ベンタイン、ベトジェット航空」を挙げた。中央省庁や地方による大規模案件には夫人や義理の息子がもれなく関与しているという。

さらに、ベトナム企業の育成ができていない上に、サムスン電子やフォルモサ製鉄所といった外資の大型工場も「前政権が種を蒔いた果実をもぎ取っているだけ」と手厳しい。破綻した国営造船ビナシン、同海運ビナラインズの再建ができていないことや、不良債権問題も解決されておらず、公務員削減も「紙の上だけ」と断じた。

請願書は、「副首相や閣僚は高く評価する。(中略)しかし閣僚たちにとって、能力がなく言葉だけで、貪欲で政治的適性や理想、倫理に劣る首相が上にいることは困難だ」と断じ、党政治局や中央委員会がフック氏を改めて考課するよう求めている。

請願書の主張の正否は判断しがたい。外資主導型経済や国有企業の破綻、不良債権問題などそれこそ「前政権が蒔いた種」だ。さらにベトナムの政治家が特定企業と結びつくことは珍しくない。本当にビン氏が書いたのか、請願書が存在するかも確認できない。問題は首相批判がこのタイミングで表出したことだ。

最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長は2期目で1944年に生まれた。さすが3期目はないだろう。書記長の覚えめでたいとされたディン・テー・フイン政治局員は病気で表舞台を去った。ナンバー2のチャン・ダイ・クアン国家主席も病気説が根強く、スキャンダルを抱える。その文脈から、請願書を「フック首相、チュオン・ホア・ビン副首相、グエン・バン・ビン党中央経済委員長」派と「チャン・クオック・ブオン書記局常務、ブオン・ディン・フエ副首相」派の次期書記長のポストをかけた争いの文脈でみる向きもある。

2016年の党大会で決まった指導部任期は後半に入り、2021年の党大会を見据えた次期指導部レースはいよいよ本格化しているとみられる。この怪文書も、その前提で分析をするべきだ。

(ベトナムウオッチャー 杜明英)