危機の越スロバキア関係

東欧にある旧共産圏の伝統的友好国スロバキアとベトナムの関係悪化が一段と進んでいる。ベトナム公安によるドイツでのチン・スアン・タイン氏(元ペトロベトナム建設会長、横領などによる終身刑で服役中)拉致事件に、スロバキアの当時の政権が関与していたという疑惑が再浮上したためだ。しかしベトナムメディアは当然として日本メディアも、この国際ニュースを報じていない。

2017年7月にベルリンから連れ去られたタイン氏は陸路でスロバキアに運ばれた。タイン氏は、首都ブラスチラヴァを訪問していたトー・ラム公安大臣ら一行がスロバキアから借り受けた政府専用機に乗せられてモスクワを経由し、ハノイに送還されたとされる。

数カ月前にこの疑惑が浮上した当初、スロバキアのペレグリニ首相は「我が国の善意が悪用されたとしか説明がつかない」と自国の関与を否定し、ベトナム政府を批判した。ところが8月2日付スロバキア紙Denník Nは、スロバキア政府がタイン氏の送還を認識していた可能性を報じたのだ。

同紙によれば、公安大臣ら4人は隣国チェコ・プラハからスロバキアの政府専用機でブラスチラヴァに入った。ところがモスクワに向かう同機の乗客は12人に増えていた。追加の乗客8人にタイン氏と拉致実行犯が含まれていた。

ドイツ捜査当局は、スロバキア政府は故意には拉致に関与しておらず政府内部にベトナムに対する協力者がいた可能性もあるとみている。そしてその協力者と目されるのが当時のフィツォ首相の側近の実業家、レー・ホン・クアン氏だ。クアン氏はベトナムとスロバキアの二重国籍保有者とされ、事件後に在越スロバキア大使館の代表を務めたが、一連の報道後に召還され、現在は行方をくらませている。

トー・ラム大臣と会談した当時のカリナック内務大臣は8月3日、一連の報道を「ただのSFだ」と一蹴した。しかしペレグリニ首相は同日、サコバ現内務大臣と警察トップをドイツに派遣して捜査に協力する方針を明らかにした。

また8日現地報道ではライチャーク外務大臣は記者会見で、「ドイツ捜査当局による調査結果が真実でないという証拠をベトナムが示さない限り、具体的な措置をとらざるを得ない」と警告した。スロバキア3党連立政権に参画する「架け橋」は、拉致への関与が事実であれば政権から離脱すると6日に発表している。スロバキア政府も追い詰められている。

東欧では、旧共産国チェコも先月、ベトナム人の就労ビザ新規発給の停止を決めた。理由はビザ申請の急増による「過度な負担」と安全保障上の懸念だという。6月には同国のザオラーレク前外相が国会外交委員会で「ベトナムは犯罪組織であり、国家安全保障の最大の脅威」と発言してベトナム人に対するビザ発給の規制強化を主張し物議を醸した。在チェコ越僑がタイン氏の拉致に関与していたことも関係悪化の背景にあるとみられる。

自国領土内で亡命を申請していたタイン氏を他国の公安が拉致した国際法違反にドイツは激怒した。チェコとスロバキアとの対立まで深刻化すれば、2019年を目指している欧州・ベトナム間のFTA(EVFTA)批准の先行きはさらに暗くなる。

(ベトナムウオッチャー 杜明英)