心の機能と医療(2 診断と直感)

(7月28日掲載「1 診断と五感」の続きです。)

救急の患者さんを診療していると、見た瞬間に診断がついてしまうことがあります。もちろんその後に診察や検査をして確定診断するのですが、最初につけた診断の正しさを確認しているだけです。この様な直感的な診断をする能力が感動するほど発達している友人医師がいます。患者さんが救急車で入ってきてその姿を見た瞬間に、「これってあれだよ」と言ってほとんど外さないのです。何故と聞くとだってそうなのだからと本人もうまく説明できないようで、聞いているこちらも腹が立つのですが感心するしかないのです。早く治療を始めれば良くなる可能性が早くなる救急医療の世界では必要な能力であると考えます。

直感的な能力は医療の危機管理にも非常に大切な役割を果たします。患者さんを見た際に何か気になるとか,何かいやな感じを受けることがあります。私の先輩は、なんか変な“におい”と表現してこの直感を診療上大切にしていました。私もこの直感的に予知される急変の予感により危機的な状態に陥る前に切り抜けたことは少なからずあります。

医療における直感的な能力は、患者と対面し五感で状態を受け止めた際に得られる情報の組み合わせと経験や知識と統合されて瞬時に得られるのだと思います。最初からこの様な能力を持ち合わせている医師もいますが、多くは自分の経験の中でいろいろと大変な思いをして身につけているのだと感じます。医療とは、不確実である上で生死に関わる仕事であり、手順を踏んで確実に行う行為と同時に、いろいろな手続きをすっ飛ばして直感的な能力が必要とされます。

医療とは人体という不確実な要素のある自然を相手にする仕事です。狩りをしていていちいち確信を持ってから動いていては獲物に逃げられてしまうことがあるので、こういった直観という能力が発達してきたのでしょうか。医療でも直感を頼りに動かざるを得ない状況に出会い、時間との勝負の科は特にそういった傾向があります。救急医学もその様な科の1つです。大切なのは確信を持つ前から行動を起こす必要があり、その行動が大きく正解と違わない方向に向かう能力を求められるということです。大学で医学教育に携わるようになり多くの医学生や研修医に知識を教えていますが、なかなかこの様な診療の大切な部分を若い方に教えるのは難しいと感じます。

次回は、もう一つの要素である感情と医療との関わりについて述べます。

*本稿は私見であり、私が所属するいかなる組織の公式見解ではありません。

(櫻井 淳、日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野 診療教授)