「ベトナム方式が北朝鮮の進む道」への懐疑

経済成長と共産党独裁体制を両立させているベトナムが、北朝鮮の発展モデルとなるという論調が賑わしい。両国とも分断国家を過去にもしくは現在進行形で経験し、米国と戦火を交えた共通点はある。だが北朝鮮に核ミサイル開発を放棄させるための外交的なレトリックを超えて、金正恩が現実にベトナムの「ドイモイ」路線を取るかという点には疑問が噴出している。

第一に1975年のサイゴン陥落以前の南ベトナムに資本主義の経験があったが、北朝鮮の国民はその歴史的体験に欠ける。

第二に改革初期の中国やベトナムでは農村人口が70%を超えていたが北朝鮮では既に都市住民が60%以上を占める。改革開放は冷戦終結後の東ヨーロッパ同様に失業率の増加など「負け組」を生むことが予見される。

第三が人口構造だ。北朝鮮人口の年齢中央値は34歳で現在のベトナムよりも高い。中国やベトナムの急成長を支えた豊富な労働力の確保は期待できない。また中国で起きつつあるが、成長の果実が行き渡る前に高齢化社会を迎える「未富先老」の蓋然性も大きい。

ポンペオ米国務長官は7月8日に訪問先のハノイで「北朝鮮がベトナムと同じ道を歩めるとトランプ米大統領は信じている」と講演しているが、韓国メディアは「米国が北朝鮮を理解しておらず、理解しようともしていない証し」と手厳しい。ベトナムでもドイモイは保守派と改革派の闘争の狭間で試行錯誤しながら進められた。また西側諸国から制裁を受けながらもベトナムはソ連や東欧の旧共産圏と交流を続けたが、北朝鮮は長きにわたり国際的に孤立している。

さらに同じ共産主義といっても集団指導のベトナムと3代世襲で個人独裁が敷かれる北朝鮮とはシステムも異なる。金正恩もその点は認識しているはずで、韓国メディアからはリー・クアンユー、シェンロン親子の下で大国に囲まれつつも自国を繁栄に導いているシンガポールの方が魅力に映っているはずとの指摘も出ている。

(ベトナムウオッチャー 杜明英)