「反経済特区デモ」に参加した米国人の起訴

ベトナム公安当局は6月15日、経済特区法案への抗議デモに参加したベトナム系米国人ウィル・グエン氏の起訴を決めた。グエン氏は18日、国営テレビに引っ張り出され「違法行為を起こしてしまったと理解している」「反国家的行為にはもう加わらない」と「懺悔」した。越僑とはいえアメリカ国籍保持者を起訴し、さらし者にする行為は異例だ。そこからは「南ベトナム」の陰に対するベトナム政府のいまだに残る警戒感が透ける。

グエン氏は10日にホーチミン市で行われたデモに参加し、空港に向かう道路上のフェンスを壊し、公安の車両を転覆させようとした「公的秩序の破壊」を犯した罪を問われている。グエン氏が流血したまま引きずられて拘束される様子を収めた動画は、SNSに投稿され、欧米メディアに注目された。3人の米議員は15日、グエン氏の即時釈放を求める声明で「次の措置として、トランプ大統領とポンぺオ国務長官に対して最高位レベルでの迅速な行動の必要性を働きかける」と発表した。

中国の海洋進出への対応に苦慮するベトナムにとって、米国との政治的対立は避けたい。実際、2016年5月に起きた台湾系フォルモサ製鉄所による海洋汚染への抗議デモでは在米越僑が逮捕されたが、国外退去処分となり起訴はなかったとされる。

なぜグエン氏には厳しい措置が取られているのか、真相はなぞだ。しかし元米国外交官のデービッド・ブラウン氏は、シンガポールの大学院でベトナム史や政治学を専攻するグエン氏が今年の4月30日(サイゴン陥落の日)に発表したエッセーに関連すると指摘している。

エッセーで彼は南ベトナム出身者からなるコミュニティーで育った半生に触れ、「ベトナム共和国(南ベトナム)は1975年4月30日をもって消え去ったが、共産主義の全体主義を嫌う数百万人のベトナム人の心の中で生きている」などとした。

エッセーはベトナム語にも翻訳されており、当局も当然に読んだはずだ。北ベトナムが統一した現在の体制にとって、旧南ベトナムを評価することは今もタブーだ。今年も旧南ベトナム国旗を掲げたとして活動家4人が収監された。またカリフォルニアを根拠とする旧南ベトナム出身らが組織する「ベトナム革新党(ベトタン)」は当局からテロ団体の指定を受けている。グエン氏は体制を転覆させようとする危険な存在に移ったのだろう。彼に対する厳しい姿勢には、戦後43年たっても消えない当局の決意がにじんでいる。

(ベトナムウオッチャー 杜明英)