「九段線」内で資源掘削に挑む日の丸リグ

ベトナム南部沖「ランドー」ガス田で5月15日、ロシア国営石油ロスネフチが商業生産に向けた掘削を開始した。日本ではほとんど報じられていないが、中国が領有権を主張する「九段線」内でのオペレーションを請け負うのは、日本海洋掘削(東京都中央区)のリグ「Hakuryu-5」だ。

南シナ海でのベトナム領海での資源開発をめぐっては、ベトナム政府は昨年夏と今年3月の二度にわたり、中国の圧力を受けてスペイン石油大手レプソルによる掘削を取りやめさせた。

今回の掘削についても中国外務省の報道官は17日、定例記者会見で「関係する当事者に中国の主権と管轄権を尊重するとともに、二国間関係や地域の安定と平和を損なういかなる行為も控えるよう促す」と牽制した。

他方でベトナム側は今回は強気だ。同国外務省報道官は同日、ロイター通信に「石油ガス関連も含みベトナムの全ての海洋経済活動は、完全にベトナムの主権と管轄権下にある海域で認可され、実施されている」と声明を出した。

5月17日付産経新聞は、レプソルとロスネフチに対するベトナム政府の対応の違いを「二重基準」として「ベトナム政府は説明を迫られそうだ」と的外れな論評している。むしろこの二重基準こそ、大国間の利害を巧みに操り国益につなげるベトナム外交の真骨頂だ。

今年3月にはベトナム戦争終結後で初となる米空母によるベトナムへの寄港が実現するなど米国との関係は深まっている。対して伝統的な友好国ロシアは、アジアから米国の影響力を弱めることでは中国と共同歩調を取り、「南シナ海問題については中立の立場を取ってきた」(ジャーナリストのニコラス・トリケット氏)。だがロスネフチは17日、「南シナ海で当社が開発権を持つブロックはベトナム領海にある」と声明を出した。ロシア政府の公式見解でないが、国策会社がベトナムの立場を支持した意義は大きい。

ロスネフチは、ロシアに対する欧米の制裁を受けて海外での活動が制限されている。さらに中国華信能源との間で進めていた1兆円規模の出資交渉も5月初めに破談になった。ロスネフチが南シナ海で火中の栗を拾いに行った裏事情が読み取れる。ベトナムのある業界関係者は「ロシアの会社には中国も強く言えないだろう」と予測する。

火中の栗を拾ったのは日本海洋掘削も同様だ。原油ガス市場の急速な悪化に伴い同社は2018年3月期は3期連続赤字、155億円の債務超過に陥り、「継続企業の前提に疑義の注記」までついた。台所事情から国際政治の波にさらされても南シナ海での仕事を取りにいかざるを得なかったのだろう。さらに同社の株式の3割強を握る筆頭株主は、経済産業省が株式の34%を握り筆頭株主の石油資源開発(JAPEX)だ。8月上旬ごろまでとみられる九段線内での掘削は、日本政府の意向を踏まえた上での決定と考えられる。

(ベトナムウオッチャー 杜明英)