インドネシア – 暴徒化事件と爆弾テロ(本名純・立大教授)

先週からインドネシアの治安が大きく揺らぐ事件が相次いでいます。インドネシアをご専門の本名純先生が5月14日、別の媒体に出されたものを、先生のお許しを得てご紹介します。


スラバヤの教会で爆弾テロ。13日飛び込んできたショッキングなニュースである。事件の全容解明はまだ早い。しかし、おそらく8日夜に起きたデポックの件、すなわち国家警察機動隊が持つ拘置所で、テロ容疑の逮捕者たちが暴徒化した事件と深く関わっていよう。なぜか。その構図と問題の根深さを考えてみたい。

スラバヤの爆弾テロは、ジハードの呼びかけを受けて行われた。実は昨日、西ジャワ州のチアンジュールでもテロ未遂事件があり、容疑者4人が警察のテロ特殊部隊に射殺されている。これら三つの事件は、過激派組織「イスラミック・ステート(IS)」の支持者たちが、過激度を増していることを暗示している。それを理解する鍵はデポックの拘置所にある。

この拘置所は、逮捕されたテロ容疑者たちが、裁判の判決を待って刑務所に送還されるまでの期間を過ごす場所だ。ここが過去数年、完全な収容オーバーで機能マヒになっている。原因はISシンパのテロ容疑者が大量に逮捕され、ここに収監されるようになったからである。テロ特殊部隊の検挙数はめざましく、昨年だけで173人逮捕している。その多くがISシンパだ。

以前この拘置所は、ジュマ・イスラミア(JI)に属すテロ容疑者が多かった。彼らが反ISであることから、警察はISシンパの被収容者のカウンセリングを彼らに任せ、それが功を奏してIS離れする者も少なくなかった。しかし、ここ数年でJI系の被収容者の多くが刑務所に送られ、今では拘置所にほとんどいなくなった。同時に大量のISシンパが入ってくるようになった。その結果、カウンセリングなどはなくなり、収容オーバーで管理も雑になり、逮捕者たちは収監中に過激思想を先鋭化するという事態に発展している。

こういう連中が、裁判のあと各地の刑務所に送還されるが、その行き先でも環境は悪化している。全国で300近くの刑務所は恒常的に飽和状態であり、収容率600%という刑務所もある。テロも麻薬も検挙率の数字を重視する傾向があり、「パクってブチ込む」結果、刑務所のキャパシティーがパンクしている。そこで何が起きているか。ISシンパの受刑者たちは、塀の外の仲間との絆が強いため、食べ物や生活用品の差し入れが豊富であり、それが一般受刑者たちを魅惑する大きなツールになっている。ここで新たな親分子分関係が生まれ、一般受刑者たちがISシンパに洗脳されていく。彼らが出所後に新たなリクルーターとなるのは想像にたやすい。

このような実態が2014年のIS誕生以降、インドネシアで顕著にみられる。今回のスラバヤの爆破テロも、「パクってブチ込む」ことに偏向してきたテロ対策の限界を露呈している。刑務所改革や逮捕者のリハビリも含めた、より長期的で包括的な対策ビジョンを固めることが政府に求められている。

(本名純・立命館大学国際関係学部教授)