「大卒貧困層」問題が浮上するシンガポール

世界屈指のビジネススクールINSEADが、グローバル人材競争力指数(Global Talent Competitiveness Index)を発表した。世界119か国の人材育成・誘致・保持能力をランク付けしたもので、類似指数のベンチマーキング・レポートとして知られる。2018年は「競争力の多様性」をテーマに、知識・経験・認知力に加え、性別・年齢・人種などの個人属性の多様性が審査された。

アジア太平洋地域で唯一トップ10に入ったのが2位にランクインしたシンガポール(昨年同様)。1位はスイスだった。他のアジア太平洋の国でトップ30に入ったのはオーストラリア(11位)、ニュージーランド(12位)、日本(20位)、マレーシア(27位)、韓国(30位)だ。競争力の高い人材を魅了するシンガポールの位置付けは揺らぎがないように見える。

国内では一方、「大卒貧困層(=graduate poor)」と呼ばれる不完全雇用者の問題が浮上しているという調査結果も出ている。シンガポール国立大学のリー・クアンユー公共政策大学院とオン・テンチョン労働リーダーシップ研究所が共同で実施した調査によると、対象者1,626人のうち4.31%(70人)が深刻な不完全雇用状態(「スキルと報酬のミスマッチ」)。大卒で正規社員なのだが、月給は2,000ドル(約16万円)未満の層だ。うち63%が女性で中間年齢35歳、失職前に10年から15年のキャリアがあり、大多数は子供がおらず、国内市場をメインとした会社(主に健康・社会福祉サービス、金融、輸送・教育関連業)で働いている、という結果だ。

高スキルの外国人労働者が多いシンガポールでは、Adapt and Grow Intiativeという政策の下、政府が昔から国民の職業スキルとキャリアアップに多くのプログラムを用意している。大小問わず企業もSkills Development Levyなるシンガポール人就業者向けプログラムのための税金を支払っている。

支援プログラムは整っているが、実際に企業が効果的に、また就労者が臨機応変に利用できているのかというと、そこは心もとない。外国企業の管理職にある筆者の友人達(非シンガポール人)は、「シンガポール人はすぐにさじを投げる」「忍耐力がない」「他人のせいにする」と手厳しい。一方、シンガポール人の友人(会計事務所勤務)によれば、「1人で2人分の仕事をさせれている上に、給料はここ5年全く上がらない」「新しい仕事を探したくても良い求人がない」と、雇用主やマーケットへの不満は強い。

大学やビジネス環境のランキングでは常に世界上位を占め、華やかなイメージのあるシンガポール。だが、大企業の駐在員でない限り、国内の雇用状況はさほどバラ色ではなく、厳しい環境に面している人も少なくないことを、「大卒貧困層」のデータは示している。ここは生活の実感値とも一致する。確固たる地位を気づいたシンガポールだが、少子高齢化は日本より顕著だ。若年層が台頭する他のアセアン各国との競争が激しくなる中、職業スキルをどう上げるか。重大な岐路に差し掛かっている。

(Hummingbird Advisories 白新田 十久子)