チョン書記長の強まる権勢への懸念

「コンセンサス形式のリーダーシップ、党内民主主義、議論の余地はあるが比較的抑圧がない市民社会といった要素が、2016年初頭のグエン・フー・チョン共産党書記長の再選から目に見えて劣化している」――。英字外交誌「The Diplomat」に先週掲載された論文の一節に驚いた。内容の鋭さもさることながら、書いたのが外国人ジャーナリストや在外の学者でなくハノイ国家大学ベトナム経済・政治研究センター(VEPR)の若い研究者だからだ。

執筆者のグエン・カック・ザン氏は、チョン書記長とベトナムの「王岐山」ともいう党中央検査委員長チャン・クオック・ブオン氏が進める反汚職運動を通じて、チョン書記長への権力集中が進んでおり、軍や公安をも手中に収めていると指摘。さらにファム・ミン・チン党中央組織委員長が取り組んでいる地方における党と人民委員会の二重行政解消は、中央での党書記長と国家主席を一人が兼務する中国式統治への布石と受け止められていると解説している。さらにザン氏は、ベトナム治安当局によるドイツでのチン・スアン・タイン氏(ペトロベトナム建設元会長)の拉致についても「ベトナム共産党が中国から学んだ卑劣な戦術」と切って捨てている。

ザン氏は、チョン書記長自身については「清廉で腐敗していない指導者」としたうえで、トップダウンの政治手法は「良き指導者」に依存しているという。そのうえで書記長への権力集中が制度化されれば、2021年の次期党大会でチョン氏が引退後にベトナムの「集団指導体制」が失われると懸念しており、それこそが「中国が望むシナリオ」と喝破している。

ベトナムにおいて党批判はタブー。ザン氏は国立大学の現役研究者にも関わらずこの禁忌に挑んだことになる。掲載が海外メディアとはいえ、この論文は彼が独自の判断で書いたのか、それとも誰かしらの承認を得ているのか。もし後者だとすれば、ザン氏が言う「チョン氏とその一派による独裁的権力の掌握」はまだ道半ばだということになる。

(ベトナムウオッチャー 杜明英)