政治劇と化したペトロベトナム裁判

「チョン書記長に謝罪します。私を息子や家族だと思いお許しください」。かつて飛ぶ鳥の勢いだったペトロベトナム建設(PVC)のチン・スアン・タイン元会長は1月17日、法廷で涙ながらにこう訴えた。

会長在任時の乱脈経営や公金横領に関する罪で無期懲役を求刑されているタイン氏は、自らを孫やおいを指す「Cháu(チャウ)」とへりくだり、最高指導者で反汚職運動を進めるグエン・フー・チョン共産党書記長を伯父「Bác(バック)」と敬い、赦しを乞うた。建国の父ホー・チ・ミン故国家主席はベトナムでは今も国民から親しみと敬意を込めて「バック・ホー(ホーおじさん)」と呼ばれている。タイン氏の陳述は、罪を裁くのが裁判長ではないこと、さらに不正に手を染めた有力者を膝まづかせるチョン氏の今の権威を如実に示す。

タイン氏は昨年7月に逃亡先のベルリンからベトナム当局の手で拉致により連れ戻されたとしてドイツ政府が強く批判している。17日の陳述ではドイツで今も子供と暮らす妻は言葉も分からず苦労しているため「そばで面倒を見させて欲しい」と訴えた。これらの発言は被告の自由な意思によるとは思えない。対ベトナム制裁やEU・ベトナムFTA発効見送りをやりかねないドイツ政府へのシグナルではなかろうか。私見だが、慈父たるチョン書記長は最終的にタイン氏に寛大な判決を下すだろう。

裁判の政治性を表す上でもう一つ重要な陳述は、前政治局員のディン・ラ・タン被告の証言だ。同氏が会長を務めていたペトロベトナムは、タイビン第2火力発電所整備にあたりEPC契約を不正にPVCに発注したとされる。タン被告は9日、「PVC指名は、首相の決定によるものだった」と証言した。さらに16日にも「コントラクターの指名は私の意見ではなく政府方針を実施しただけ」と釈明した。チョン書記長による反汚職運動の最大のターゲットであるグエン・タン・ズン前首相に対する包囲網は確実に狭まっている。

(ベトナムウオッチャー 杜明英).