潮目変わったロヒンギャ難民めぐるバングラデシュ情勢

ミャンマー西部ラカイン州からイスラム少数民族ロヒンギャがバングラデシュに大量流入して2年。両国間の合意に基づく難民帰還が全く進まない中、累計100万人のロヒンギャ難民が滞留するバングラデシュ南東部コックスバザール県では、難民と地域住民の対立が噴出するなど治安が悪化し、同国の難民政策が急速に硬化している。

政府は9月2日、難民問題を統括する難民救援・帰還委員会(RRRC)のモハマド・アブル・カラム長官を更迭し、各難民キャンプの行政責任者(CIC)7人を解職した。カラム長官は、強制送還ではなく難民の自発的帰還という国際ルールを順守する誠実な人柄で、国連機関やNGOから信頼されていただけに、突然の離任は波紋を広げている。更迭理由は明確で、8月22日に開始される予定だった難民のミャンマー送還が2018年11月に続いて失敗に終わったこと(難民が誰も帰還に応じなかった)、そして流入2周年の8月25日に最大のクトゥパロン難民キャンプで20万人規模の集会が開かれたことである(写真、関係者撮影)。集会は「ミャンマー政府がロヒンギャの市民権を認めない限り帰還しない」ことをアピールする平和的な集会だったが、これほど大規模かつ組織的な難民の政治集会の開催を許したことに、中央政府や国民世論が激しく反応した。

帰還開始が中止された8月22日には、同国最南端の難民キャンプでロヒンギャの犯罪集団が与党アワミ連盟系の地元有力者を射殺する事件があり、取り巻きの住民が暴徒化してキャンプ内の公共施設を破壊する騒動に発展した。難民流入の影響を受ける地域住民の反発は昨年来高かったが、一連の事態を受けて地元ベンガル語新聞は「国連やNGOがロヒンギャ帰還を妨害している」と反ロヒンギャ感情を煽る記事を連発し始め、政府当局も難民が使う携帯電話のSIM販売や通信を禁止する方針を打ち出すなど、難民を取り巻く環境は流入2周年を境に目に見えて厳しくなっている。

国際社会で本来糾弾されるべきミャンマー政府・国軍への責任追及や制裁、あるいは本国帰還が進まないことに苛立つバングラデシュ社会の怒りの矛先が、ロヒンギャ難民、そして人道援助に携わる国連・NGOに向かう危険な状況が生まれている。

(ジャーナリスト、中坪央暁)