黒木氏の逮捕と日本のコンプライアンス「運用」

黒木正博氏が逮捕された。1999年の「リキッドオーディオ・ジャパン」事件で一躍「有名人」になり、その後は金脈を通じた人脈でマーケットを揺さぶり続けた人。東証マザーズ上場1号案件の調達資金は、そのほとんどが闇に消えたとされる。

筆者は当時、在京外資系金融機関からの調査依頼のおかげで、関係する人脈や企業の内情を随分と見させていただいた。黒木氏の名前を見れば、仕事の興奮が蘇り懐かしくなる一方、20年たった今でも彼らの活躍できる土壌がまだ十二分に日本にあることに、かなり驚く。

直接の逮捕容疑とは別に、今回の逮捕にかかる背景は、舞台となったインテリア販売会社ラポール(東京都港区)の経営資金名目で、偽造書類などを使って2015年ごろから約20の金融機関から20億円以上の融資を詐取した、というもの。金融機関には、事件がらみで頻出する関西の地方銀行などが挙がっているようだが、明らかではない。逮捕された黒木氏以外4人のうち、3人も名前が報道で出ていない。「昔の名前」もあるに違いない。

日本の金融機関は1990年以降の土地バブル、ITバブルの崩壊、リーマン・ショックなどを経て、政府の指導もあってコンプライアンス・ルールを少なくともその条文だけは精密機器のように緻密にしてきた。今回は、融資申請書類に黒木氏の名前は出てこなかった、という情報もあるが、それでも金融業界はまた黒木氏に「してやられた」ことになる。

地銀と聞けば「コンプライアンスなんてボロボロですよ」(メガ邦銀行員)という声はあるし、自身の業務でも同じ感想を持ったこともある。が、それは本質ではないだろう。むしろ今回の逮捕は「ルールは作るが運用しない(できない)」、確認しないで「このディールは大丈夫です」という日本ビジネス界の一面を、計らずしも照射したのではないか。

金融に限らず外資系企業の情報への貪欲さ、潤沢な情報があるが故の前進力を見せつけられてきただけに、黒木氏の逮捕に暗澹たる気持ちになった。

(Hummingbird Advisories  佐藤 剛己)